果実は収穫できそうな大きさになっているのですが、なんだかトマトが赤くなりません…
果実が実ってから、もう1ヶ月以上経つと思うのですが、赤くなりません。年によっては、気づいた時には赤くなっているし、今回みたいに、なんだかしばらく赤くならない事があります。トマトが赤くならない理由はどういう事ですか?
このまま、栽培を続けていれば赤くなりますかね?
このような疑問をお持ちの方へ向けて、この記事を書きました。
この記事を書いている僕は、17年間トマト栽培を行っております。
国内の種苗会社や、農業生産法人で北海道を中心に海外も含め、トマト栽培やトマトの研究を行い、現在は札幌市でトマト農家をしています。
このブログでは、自分の栽培経験を生かし、生産者の方や家庭菜園の方の疑問、質問に答える形でトマトの育て方等と紹介しています。
家庭菜園で、トマトを栽培している方とお話すると、けっこうな頻度で
「うちのトマト赤くならないんだけど、何で?」
と質問を受けます。
赤くならずに悩んでいる方の、トマトの状況を聞くと、赤くならない状況がいろいろと見えてきます。
ほとんどのケースで、
トマトの花が咲いてからの「積算温度」が不足している事が原因となっています。
極端に灌水や、与える肥料が少ない場合は、生育自体がうまく進まず、トマトの果実が赤くならない場合もありますが、積算温度不足のケースがほとんどです。
今回は、トマトが赤くなるのに必要な条件の「積算温度」の解説や、過去に経験した事例などを参考にして、「なぜトマトが赤くならないか」について解説します。
また、気象庁の気象データを利用し、トマトが赤くなる目安時期の把握に役立つWEBサービスも紹介します。
家庭菜園でトマトの栽培がしたいけど、畑が準備できない方は、レンタル式シェア農園の利用がオススメです(手ぶらで行けて栽培サポート付きです)。
トマトが赤くならない理由
トマトが赤くならないのは、
赤くなる条件が揃っていないためです。
何だか当たり前の事を言ってすみません。。。
ただ、必要な条件を知っておくと、トマトの果実が赤くならなくても不安にならず、
最適の管理を行う事につながるため、把握しておくと役立ちます。
では、トマトが赤くなるメカニズムと、必要な条件について解説します。
トマトが赤くなるメカニズム
開花後のトマトの果実は、緑色ですよね。
これは、果実に「クロロフィル」(葉の緑の素と同じ)が含まれているからです。
赤くなるため(トマトの果実が熟すため)の条件が整うと、
- ①:果実への水分、糖分の供給が少なくなる
- ②:①の現象により、果実内の新たなクロロフィルの生成が少なくなる
- ③:②の現象により、クロロフィルに含まれていたカロテンが目立つようになり、リコピンの生成も活発になり果実が赤くなります。
*リコピン、カロテンは赤色の色素です。
トマトの果実が赤くなる原理は、森林の紅葉の原理にもよく似ています
樹木の葉も、通常はクロロフィルを多く含み緑色です。
そこに、赤くなる条件(樹木の場合は気温が低くになる事)が揃うと、クロロフィルの生成がなくなり、
その分、赤い色素(樹木の場合はアントシアニンが主)の生成が活発になって紅葉します。
トマトも紅葉も、ざっくり説明すると、
- 1:まずは、緑
- 2:次に、緑の素がなくなる
- 3:そして、赤の色素が増える
というように、赤くなります。
トマトの赤色のメカニズムについてはこちらの記事も参考にしてください。
いつも赤い服を着ている知り合いがいます。「どうして、いつも赤い服を着るの?」と聞くと、「トマトが赤いから」と答えていました。その人はトマトが好きだから、いつも赤い服を着るそうです。トマトが赤い事って、当たり前と思って[…]
トマトが赤くなる条件
トマトが赤くなるには条件が必要です。
条件が揃って、はじめて、赤くなるきっかけを作れます。
トマトの果実が赤くなる条件は大きく2つです。
- トマトの生育が順調な事
- 必要な積算温度を経過している
それぞれの条件を詳しく解説しましょう。
赤くなる条件①:トマトの生育が順調な事
まず、前提条件として、トマトがストレスなく生育できる条件になっている事が必要です。
以下の条件下では、順調な生育ができず、トマトを赤くする事にブレーキをかけてしまいます。
- 栽培している環境の気温が低すぎて生育がストップしている(最低気温6度以下)
- 土壌中の水が少なすぎて、萎れの状態が続いている
- 逆に土壌中の水の量が多すぎて過湿の状態となっている
- 与える肥料が少なすぎて、十分な草勢(生育の強さ)を保つ事ができていない
- 逆に多すぎて、茎と葉の生育にバランスが偏ってしまっている
*トマトの場合、過剰な肥料を与えると、果実が赤くなる事に大きなブレーキをかけてしまいます。
赤くなる条件②:十分な積算温度を確保している事
トマトが赤くなるために、最も大事になる要素が温度です。
*積算温度=ある期間からの、1日あたりの平均温度を合計したもの
トマトの果実が赤くなるには、元の花が咲いてから、
1,100℃〜1,200℃必要です。
*必要な積算温度は、品種によって変わります。
たとえば、1日の平均気温が20℃の場合、
55〜60日必要となります。
ちなみに、種まきから最初の花が開花するまでも、1100℃程度の積算温度が必要となり約55日かかります。
ですので、トマトの栽培を種蒔きから始める、プロの農家さんは、約4ヶ月間、赤いトマトを収穫できないのです。
時期、地域やその年の気象条件によって、1日の平均気温が変わるため、収穫までの目安日数は変わります。
実際のトマトの栽培現場では、同じ品種の場合でも、 栽培の条件によって、開花から収穫までの日数大きく変わります。
気象庁ホームページはこちら
しかし、ほとんどの場合トマト栽培は、ハウスなどの施設を利用します。
それぞれの栽培環境の気温のデータを連続的に入手するには、データロガー型の温度計の利用がオススメです。
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おんどとりシリーズは、スマホを利用しコードの接続なしでデータを確認できますし、WIFI環境下であれば、クラウドにデータが上がりWEB経由でデータの確認が可能です。
自動的にグラフ表示になったりと、栽培に関する温度データを効率的に利用できます。
トマトが赤くなる事ために重要となる積算温度については、こちらの記事も参考にしてください
栽培しているトマトの果実が、十分なサイズになっているのに緑色のままで、いつまで経っても赤くなりません。果実が実ってから、1ヶ月以上も経つのですが、赤くなりません。近所のトマト農家の人にどうしてか質問すると、「花が咲い[…]
トマトが赤くならない時の対策方法
上の章で解説したとおり、トマトが赤くなるためには、条件があります。
では、この条件に近づけるためには、どのような管理の方法があるかを解説しましょう。
待つ
必要な条件が整っていれば時間が解決してくれます。
栽培環境がトマトの生育に適する時期で、外気温が十分ある場合は、灌水、追肥など、健全にトマトを管理していれば、時間が解決してくれます。
赤くなるのを待ちましょう。
積算温度を利用する野菜の収穫時期管理サービス
これまで解説したように、開花後の積算温度の把握が、トマトの収穫時期を予想するのに重要となります。
トマトやその他作物の収穫時期の予測をしたい方は、ぜひお試しください。
このサービスは、毎日更新される各観測地域の最新気象条件を利用し、 日本国内の栽培する地域、時期ごとに、 栽培している野菜の収穫日の目安を把握するものです。
スマホでもお使いのブラウザ、アプリ(iOS)から利用できるため、 栽培現場からの情報の確認も可能です。
こちらから、サービスの確認、申し込みができます。
野菜の収穫時期を知る無料WEBサービス【ハーベストタイマー】
【HarvestTimer | ハーベストタイマー】iOS
積極的に赤くなるように管理する
特にハウスを使用しない露地栽培では、秋〜冬期などは外気温が下がり、積算温度の確保に時間がかかるようになります。
トマトの生育が順調に進んでいても、単純に積算温度が足りなくて栽培期間中に、赤くならず収穫できず、栽培出来る期間が終わる事もあります。
このように、特に秋〜冬の時期は、積極的に赤くなる事を助ける管理することが、
決められた期間の中で、確実にトマトを赤くする事につながります。
果実を赤くするために有効な方法は以下のとおりです。
- トマトを保温する
- 葉かきをして果実に積極的に太陽の光を当てる
- 着色促進に効果のある調整剤を使用する
着色促進の方法①:トマトを保温する
しつこいようですが、トマトの果実が赤くなるために一番重要な条件は、
開花後の積算温度です。
そこで、保温の効率を高めて、積極的にトマト果実の温度を高めて着色を促進する方法が有効になります。
ハウスで栽培している場合であれば、換気の管理で栽培環境の温度を調整できます。
ハウスの使用が難しい場合は、「簡易のトンネルを設置しようかなと」思う機会も多いと思います。
ただ、トマトの場合草丈が高く、設置が難しいです。
べたがけ用不織布は、光の透過性が十分あり、通気性もあるので、日中もトマトにかけたままにできます。
7月、8月の高温期では、不織布資材の下のトマトが暑すぎる条件になることもありますが、トマトの保温が必要になるのは、外気温が低くなる春、秋期のケースが多いので、心配なく使えます。
不織布資材は、トマトの株に「べろん」とそのままかけても良いですが、
アーチ支柱等を使用して、株と不織布の間に空間を作ったほうが、保温の効果がでます。
着色促進の方法②:「葉かき」をして果実に積極的に太陽の光を当てる
果実の周辺に、葉が多い状況だと、果実への光が遮られる事があります。
そのため、特に果実に近い葉を取り除く(葉かき)事は、着色促進に繋がります。
栽培環境全体の管理する温度を上げて、積算温度をかせぐ方法は、安定して効果が出やすいですが、施設や資材の準備が必要となります。
この「葉かき」する方法は、
- 準備するものがほとんどなく、簡単に行える
- 果実への光のあたり具合が均一になり、色の周り方が均一になる利点もある
葉かきの方法についてはこちらの記事も参考にしてください。
トマトの葉かき作業について質問する人:「近所でトマト栽培をしている人のトマトを見ると、「葉かき」がされていて、けっこうスッキリしているように見えます。せっかく葉が大きくなったのに、切ってなくしてしまうのは、何だか[…]
着色促進の方法③:着色促進に効果のある調整剤を使用する
トマトの栽培に利用できる、生育調整剤にはいろいろな種類がありますが、
果実の着色を促進する調整剤もあります。
エスレル10は、トマト以外にも、モモ、ブドウ、ナシなどの果実の熟期促進にも使用され、植物ホルモン「エチレン」と同じ作用の効果が期待できます。
葉面散布の方法については、こちらの記事を参考にしてください。
トマトの栽培技術の中に、葉面散布がありますよね。「葉っぱ」に、いろいろ散布すると思うのですが、いったいどのようなものなのでしょうか?どのような効果があって、どういう時に使うものですか?薬剤散布とはどのよう[…]
トマトへの利用の場合、
- 白熟期を迎えていないトマトの果実へは効果が劣るので、あともう少し(80%から100%にする)の着色を促進させる目的の使用に向く
- 1果房に対して1回散布する事ができますので、果房ごとの熟期の状態をチェックし、白熟期を迎えるごとに、エスレル10を使用すると効果が高い
- 白熟期(着色開始前の果実の状態で、果実のつやがなくなり、白色っぽい色となる時期)を迎えている果房に、基準の倍率で希釈したものを散布(果房だけ狙って散布しても、他の茎、葉、花にもかかても大丈夫)
- 散布は300〜500倍に希釈して利用する(300倍の方が効果が、早く、安定して出る)
*「植物生長調整剤」として扱われて厳密には農薬ではないですが、各トマトの生産組合、部会の基準によっては農薬の使用としてカウントされる場合もあるかもしれないので、確認のうえご使用ください。
トマトが赤くならない理由と、対策について、解説しました。
らでぃっしゅぼーや(定期宅配コース)
以上、「トマトがあれば〜何でもできる!」が、座右の銘。
とまと家・中島がお届けしました。
Happy Tomating!!