果実が実ってから、1ヶ月以上も経つのですが、赤くなりません。
近所のトマト農家の人にどうしてか質問すると、
「花が咲いてからの積算温度が足りないんだよ。」
と、アドバイスされました。
積算温度ってどのようなものなんですか?
このような疑問をお持ちの方へ向けて、この記事を書きました。
この記事を書いている僕は、17年間トマト栽培を行っております。
国内の種苗会社や、農業生産法人で北海道を中心に海外も含め、トマト栽培やトマトの研究を行い、現在は札幌市でトマト農家をしています。
このブログでは、自分の栽培経験を生かし、生産者の方や家庭菜園の方の疑問、質問に答える形でトマトの育て方等と紹介しています。
積算温度(せきさんおんど)は、家庭菜園を行っている方でも、あまり馴染みのない言葉かもしれませんが、トマトや他の野菜にとっても、果実などの青果物を収穫するまでに必要とされる重要な条件であり、収穫時期の予測にも利用されることもあります。
トマトの場合、花が咲いてから、その花から実った果実が赤くまるまで(開花〜収穫)に必要な条件として利用される事が多いです。
トマトの開花までに必要な積算温度の条件を把握すると、栽培中に果実が赤くならなくても、慌てずに対応できるようになり役立つ情報のひとつです。
今回は、トマトの収穫までの必要な積算温度を、他の作物の情報も加えながら解説します。
トマト栽培に利用される積算温度とは?
そもそも積算温度はどのような温度なのでしょうか?
積算温度は、ある期間の1日あたりの平均温度を合計したもの
例えば)5日間の期間で、下のグラフのような1日あたりの平均気温の条件があったとします。
1日ごとに、その日の平均温度を足したものが、積算温度となります。
棒グラフで解説すると、下のようになります。
1日目〜5日目までの5日間の積算温度は→90℃
となります。
生育の進展を示す指標として利用される
野菜などの作物では、種類によって
- 播種〜発芽
- 開花〜完熟(収穫期)
など、目的とする状態になるまでに必要な温度が決まっているため、対象の測定開始時期から毎日の温度を測定し、生育の予測や、収穫適期の判定に利用されます。
野菜の収穫期の判断に利用する場合は、気温を利用する事が多い
温度には、いくつか種類があり、状況によって使いわける事があるように、積算温度も条件によって使い分ける場合があります。
トマトや野菜の栽培の中で主に関係するのは、
- 気温(主に、地上部の茎、葉、花、果実の生育に関係する)
- 地温(主に、播種〜発芽時や、地上部の根の生育に関係する)
- 水温(主に、水耕栽培での根の生育に関係する)
が、主な3項目です。
積算地温、積算水温と意識的に表現されていない場合は、積算温度=積算気温とされる事が多いです。
積算温度に利用される日平均気温とは?
積算温度は、①期間と、②対象の期間内の日平均気温、によって構成されます。
日平均気温の条件も、積算温度の測定に大きく関係する要素です。
日平均気温は、1日の中の複数カ所の気温の平均したもの
例えば①:
- 最高気温と最低気温の2点を平均したもの
- 1時間ごとに24カ所の気温を平均したもの
などがあります。
ちなみに、気象庁の国内の日平均気温は、1時間ごと24カ所からの平均値を採用しています。
例えば②:
下のグラフのように、1日の気温が推移したとすると、
・1時間ごとに24カ所の気温を平均したもの → 350 / 24 = 14.5 ℃
というように、どのような条件にするかによって、1日あたりの平均気温が変わります。
トマトの収穫までに必要な積算温度
積算温度に関する、基本的な知識を得たところで、トマト栽培で利用される積算温度について解説しましょう。
開花〜着色(収穫期)までの積算温度
1,100〜1,200℃(大玉トマトの場合)
1,000〜1,100℃(ミニトマトの場合)
開花〜着色(収穫期)までの積算温度は、品種の特性によっても変わります。
大玉トマトの品種の場合:
品種カタログや、品種の解説をみると、熟期の項目に、極早生(ごくわせ)、早生(わせ)などと表記されている品種は、1,100℃に近く、それ以外の熟期は1,200℃に近い積算温度となります。
ミニトマト、中玉トマトは、全般的に大玉品種よりも積算温度が少ない傾向にあります。
開花〜着色(収穫期)までの日数
温度を目安とするため、ある期間(開花から収穫まで)は、対象となる1日あたりの平均気温によって変わります。
そのため、実際のトマトの栽培現場では、同じ品種の場合でも、 栽培の条件によって、開花から収穫までの日数は、短い場合の35日間から、長い場合の75日間程度の幅があります。
例えば:
・積算温度1,100℃、全ての日平均気温が30℃の場合:収穫までの日数は → 36.6日
このように、栽培の条件によってトマトの気象条件は大きく変化します。
気象庁のサイトにて、各地の温度等の気象データを利用する事ができます。
また、データロガー型の温度計を利用する事で、栽培場所ピンポイントの情報がわかるので、精度の高いデータ収集と活用が行えます。
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おんどとりシリーズは、スマホを利用しコードの接続なしでデータを確認できますし、WIFI環境下であれば、クラウドにデータが上がりWEB経由でデータの確認が可能です。
自動的にグラフ表示になったりと、栽培に関する温度データを効率的に利用できます。
【積算温度】と【有効積算温度】
積算温度の解説をする時には、有効積算温度の解説も同時に行う事が重要です。
有効積算温度とは?
生育に必要な最低温度以上の、日平均温度を合計したもの
例えば、トマトの場合:
健全な生育に必要な最低気温は、6〜8℃とされており、基準温度を6℃した場合、
というようになります。
多くの場合、積算温度は基準温度を超えた栽培条件で利用される
栽培現場で積算温度を利用される時は、最低気温が基準温度を下回らない条件で使用される事がほとんどです。
そのため、冬期の栽培など、栽培中の気象条件の最低気温が作物の基準温度を下回る日がある場合は、注意が必要です。
有効積算温度使用時の注意点
場合によっては、日平均温度から基準温度を引いた温度を有効積算値として利用される場合があります。
例えば、トマトの場合:
健全な生育に必要な最低気温は、基準温度を6℃した場合、
トマト以外の作物の収穫に必要な積算温度の一覧
これまでは、トマトの栽培の開花〜収穫までの積算温度を例として、解説してきました。
この章では、他の作物の収穫までの目安積算温度について解説します。
注)こちらで紹介している積算温度目安はあくまでも参考の情報です。同じ作物でも、栽培環境、栽培管理、品種の条件によって変動します。
分類 | 作物名 | 観測開始ステージ | 収穫までの積算温度 | 収穫時の収穫物の規格 |
---|---|---|---|---|
果菜類 | トマト | 開花後 | 1,100〜1,200℃ | 完熟(着色開始) |
ミニトマト | 開花後 | 1,000〜1,100℃ | 完熟(着色開始) | |
ナス | 開花後 | 300〜400℃ | 果実の長さ15cm程度 | |
ピーマン | 開花後 | 250〜350 | 果実の長さ10cm程度 | |
パプリカ | 開花後 | 1,000〜1,100℃ | 完熟(着色開始) | |
イチゴ | 開花後 | 800〜900℃ | 完熟(着色開始) | |
キュウリ | 開花後 | 200〜300℃ | 果実の長さ20cm程度 | |
カボチャ | 開花後 | 900〜1,000℃ | 完熟(ヘタのコルク率50%以上) | |
メロン | 開花後 | 1,100〜1,200℃ | 完熟 | |
スイカ | 開花後 | 1,000〜1,100℃ | 完熟 | |
オクラ | 開花後 | 100〜150℃ | 果実の長さ10cm程度 | |
エダマメ(緑) | 開花後 | 600〜700℃ | 莢が十分に膨らむ | |
エダマメ(茶・黒) | 開花後 | 700〜800℃ | 莢が十分に膨らむ | |
スイートコーン | 播種後 | 1,700〜1,800℃ | 穂先の粒が 十分に詰まる | |
葉菜類 | ハクサイ | 苗定植後(本葉3〜5枚) | 900〜1,000℃ | 十分な結球状態 |
キャベツ | 苗定植後(本葉3〜5枚) | 800〜900℃ | 十分な結球状態 | |
ブロッコリー | 苗定植後(本葉3〜5枚) | 900〜1,000℃ | 蕾部直径15cm程度 | |
カリフラワー | 苗定植後(本葉3〜5枚) | 900〜1,000℃ | 蕾部直径15cm程度 | |
コマツナ | 播種後 | 400〜500℃ | 葉の長さ20cm程度 | |
ミズナ | 播種後 | 400〜500℃ | 葉の長さ20cm程度 | |
ホウレンソウ | 播種後 | 500〜600℃ | 葉の長さ20cm程度 | |
レタス | 苗定植後(本葉3〜5枚) | 800〜1,000℃ | 十分な結球状態 | |
リーフレタス | 苗定植後(本葉3〜5枚) | 700〜800℃ | 葉の長さ20cm程度 | |
根菜類 | ニンジン | 播種後 | 1,000〜1,100℃ | 根長15cm程度 |
ダイコン | 播種後 | 900〜1,000℃ | 根長30cm程度 | |
コカブ | 播種後 | 500〜1000℃ | 根径5〜6cm程度 | |
タマネギ | 苗定植後 | 500〜800℃ | 玉径10cm程度 | |
ネギ | 苗定植後(本葉3枚) | 1,200〜1,400℃ | 茎径2cm程度 | |
葉ネギ | 苗定植後(本葉3枚) | 600〜700℃ | 葉長30cm程度 |
積算温度を利用する野菜の収穫時期管理サービス
これまで、トマトや他野菜の栽培の中での、積算温度の解説や、利用方法について解説してきました。
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以上、「トマトがあれば〜何でもできる!」が、座右の銘。
とまと家・中島がお届けしました。
Happy tomating!!