トマトの栽培技術の中に、葉面散布がありますよね。
「葉っぱ」に、いろいろ散布すると思うのですが、いったいどのようなものなのでしょうか?
どのような効果があって、どういう時に使うものですか?
薬剤散布とはどのように違うのでしょうか?
いろいろ教えてください。
このような疑問をお持ちの方へ向けて、この記事を書きました。
この記事を書いている僕は、17年間トマト栽培を行っております。
国内の種苗会社や、農業生産法人で北海道を中心に海外も含め、トマト栽培やトマトの研究を行い、現在は札幌市でトマト農家をしています。
このブログでは、自分の栽培経験を生かし、生産者の方や家庭菜園の方の疑問、質問に答える形でトマトの育て方等と紹介しています。
葉面散布は、主に、
葉に液状の肥料を散布する作業の事を指します。
トマトに肥料を与える場合、根から与える方法が多く使われますが、
状況によっては、根から与えるより、葉面散布によって葉から与えるほうが、安定して効率的に効果を出せる場合があります。
例えば、
- 土壌の環境が悪く、根の動きが悪い時
- 葉で何かの肥料要素が不足している時
- 作業後、なる早で肥料を効かせたい時
などです。
葉面散布は、与える事のできる肥料の総量が多くないですが、
その分、
即効性があり、細かく肥料のコントロールができます。
プロの農家さんでは、よく利用されている作業です。
現在では、葉面散布用の肥料の種類も多く、さまざまな目的に対応できます。
ぜひ、プロへの第一歩とも言える、葉面散布をマスターして、次のステップへ進みましょう。
この記事では、トマト栽培で良く利用する、葉面散布の解説、方法のコツなどについて、解説します。
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トマトの葉面散布の基礎知識
トマト栽培の中で、葉面散布は、他のメジャーな管理作業と比べると、
紹介される機会が少ないかもしれません。
そんなちょっとマイナーでも、重要な管理である葉面散布の基礎知識について解説します。
葉面散布と薬剤散布の違いとは?
葉面散布は、主に、
葉に液状の肥料を散布する作業の事を指します。
他にも、「葉に散布する」といえば、薬散(薬剤散布)を思い浮かべる方も多いと思います。
この2つの大きな違いは、
葉面散布 → 液体の肥料や、生育調整剤を散布する
薬剤散布 → 農薬を散布する
というように、何を散布するかによって使い分けられます。
もちろん、言葉の意味的には、葉面散布を薬剤散布と言い換える事はできますが、
園芸の中では、一般的に上記のように使い分けられます。
どのように葉から肥料が吸収されるのか?
土の中に液肥を与えて、根から吸収されていく動きと比べると、
葉から液肥が吸収されるのはイメージしにくいかもしれません。
主に、葉の裏の気孔から、葉の中への吸い込まれます。
この後で解説していますが、
トマトの葉面散布の作業方法
葉面散布の作業にも、注意しないといけない事と、効果を高めるコツがあります。
ちょっとした事に気をつけるだけで、効果の出かたも大きく変わります。
使用目的の確認と、使用資材の選定
ここでは、葉面散布用の資材(主に肥料)について、解説します。
葉面散布用の資材は、たくさんの種類があり、使用する肥料によって効果が変わります。
自分の期待する効果を得るには、どの資材が良いのか調べて、選定しましょう。
主な目的と葉面散布剤の特徴は以下のとおりです。
*代表的な資材を、葉面散布剤の種類にリンクさせています。
草勢回復(生育を強くする) | チッソの割合が多い肥料 |
草勢調整(生育を弱くする) | リン酸、カリの割合が多い肥料 |
尻腐れ果対策 | カルシウム剤 |
葉先枯れ | カリの割合が多い |
裂果対策 | アミノ酸系 |
着色促進 | エチレン系 |
葉面散布用の肥料には、液体のタイプと、粉状のタイプがあります。
どちらも、効果に違いはないですが、
水との混合を考えると、液体のものが使いやすいかもしれません。
1回の散布量、倍率、実施頻度
使用する資材が決まったら、その資材推奨の倍率、散布量、使用頻度を参考にしましょう。
資材によって幅はありますが、
500倍〜1,000倍で、1週間に1回程度で利用するものがほとんどです。
実施の頻度の目安は、各資材で解説されていると思いますが、
早く、しっかり効果を出したい場合は、多い頻度で行うことが有効です。
葉面散布を行う時間帯
葉面散布は、天気の良い日の午前中(なるべく涼しい時間帯)に行う事が大事です。
よくない散布の時間帯の例
夏の時期の日中に行う ↓
・気温が高く、太陽の日差しが強い時は、散布後すぐに薬液の水分が蒸発し、極高濃度で肥料が葉から吸収されてしまう
夕方の遅い時間帯に行う ↓
・葉の気孔が十分に開いておらず、肥料がスムーズに吸収されない
・葉に水分がついたまま夜をむかえ、病気の発生を招く
このような事から、
- 夜を迎える前に、葉の液体が乾ききる事
- 太陽光が強く、気温が高い時間帯はさける
ことを条件として、作業する時間帯を決めます。
農家の方で、ハウス内に遮光ネットの施設がある場合は、散布の時間帯の調整に役立ちます。
露地栽培の場合は、雨が降りそうな天候の時は、無理に作業をしないほうが良いです。
肥料が吸収される前に、雨に降られると効果がえられませんので。
葉面散布の効果の確認方法
いくら効果に即効性のある葉面散布でも、
作業実施後の翌日や、2、3日後に、はっきり目でわかる効果を確認するのは難しいです。
効果を確認できるまで、作業を続けましょう。
その際に、
効果が弱いと思ったら、倍率の調整や、頻度を上げて対応する事をオススメします。
葉面散布作業の利用する資材
どのような資材を利用するかは、栽培している面積、株数によって大きく変わります。
ご自身の栽培状況によって使い分けてください。
葉面散布に使用される代表的な、資材を紹介します。
少ない水量の薬液を作る時は、スポイトなど、小さい単位を軽量できるものがあると便利です。
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トマトの葉面散布の使いどころ
基本的に、葉面散布は肥料を与える管理です。
与える事のできる肥料の総量や、1度の作業の効果は、根から与える方法のほうが高いです。
しかし、状況によっては、
葉から肥料を与える葉面散布の方が、大きな効果を発揮します。
この章では、葉面散布の使いどころについて解説します。
草勢のコントロール
特に、草勢(株の生育の強さ)が強くなり過ぎて、草勢を抑えたい時に有効です。
トマトの栽培では、ものを足すことは簡単ですが、ものを引く事はできません。
例えば、
灌水、肥料の与える量が少なすぎた場合は、もう一度与え直せば良いのですが、その逆はできないですよね。
このような場合は、(リン酸、カリ主体の肥料の)葉面散布によって草勢のコントロールするのが有効となります。
ちなみに、草勢を弱くするための管理として、
「葉かき」がありますが、手間のかかる作業のため、葉面散布は効率的に行える方法といえます。
「葉かき」作業については、こちらの記事を参考にしてください。
トマトの葉かき作業について質問する人:「近所でトマト栽培をしている人のトマトを見ると、「葉かき」がされていて、けっこうスッキリしているように見えます。せっかく葉が大きくなったのに、切ってなくしてしまうのは、何だか[…]
特定の要素の補給(葉先枯れ、尻腐れ、微量要素欠乏)
トマトで発生する生理障害は、ある特定の要素が、特定の部位で不足して発生するものが多いです。
このような場合は、
葉面散布による肥料の補給が効果的です。
葉先枯れや、微量要素欠乏は、葉で要素が不足しているため、その部位に肥料を直接与えられます。
尻腐れの場合は、カルシウムは植物体内で動きにくい性質をもつため、葉から供給する事で、体内全体に供給する事ができます。
株が急に萎れた時の回復
雨天や曇天が続いた後に、急に晴天になり温度が急激に上がると、トマトの株が萎れる事があります。
葉から蒸散される水の量に、根から吸う量が追いつかなくなるためです。
この種の萎れは、土壌中には十分に水分があっても、起こります。
そしてこのような状況の場合、
肥料を加え葉面散布を行うと、萎れの対策となります。
葉から直接水分を吸って回復する事も理由となりますが、
株の先端に近い場所から萎れやすいので、
萎れの対策を行う場合は、株全体ではなく、高い部分だけに散布しても効果が得られます。
また、葉の中の肥料濃度が上がれば良いので、肥料であれば、どの種類でも効果がでます。
浸透圧の働きによる、トマトの植物体内中の水分の動きは、こちらの記事が参考になると思います。
参考にしてみてください。
トマト栽培の情報をネットで集めていたら、塩水で灌水をして糖度を上げる技術が紹介されていました。塩水で灌水すると、トマトが枯れちゃうんじゃないかと思ってしまうのですが、このような方法もあるのですね。塩であれば準備するのも難[…]
根の動きがわるい時(低温期、大雨、台風後など)
根の動きが悪い時は、肥料の吸収も弱くなります。
そのため、
葉から肥料を与える葉面散布が有効になります。
根の動きが悪くなる主な場合は、
- 低温の時期で、地温が低い
- 露地の栽培で、台風などの大雨が過ぎて、土壌中が極端に加湿な条件となっている時
などがあります。
根にダメージがある時は、なるべく早いタイミングで葉面散布を行うと、良い対策となります。
以上、トマトの葉面散布の方法について、
「トマトがあれば〜何でもできる!」が、座右の銘。
とまと家・中島がお届けしました。
Happy Tomating!!