これって何でしょうか?
病気なんですかね?
すぐに採ってしまった方が、いいですかね?
これから治りますかね?
このような疑問を、お持ちの方へ向けて、この記事を書きました。
この記事を書いている僕は、17年間トマト栽培を行っております。
国内の種苗会社や、農業生産法人で北海道を中心に海外も含め、トマト栽培やトマトの研究を行い、現在は札幌市でトマト農家をしています。
このブログでは、自分の栽培経験を生かし、生産者の方や家庭菜園の方の疑問、質問に答える形でトマトの育て方等と紹介しています。
トマトの果実のお尻が黒くなるのは、
「尻腐れ果(しりぐされか)」という症状です。
病気ではなく、果実へのカルシウム不足が原因となる、生理障害のひとつです。
「尻腐れ」と呼ばれる事もあり、
例えば、
「いや〜今年は、尻腐れが多くて、まいっちゃうぜ〜」といった感じです。
果実でのカルシウム不足と、発生の原因はしっかり理解していても、
栽培の現場ではよく発生する生理障害です。
なぜなら、灌水が少なくて土壌が乾燥する、肥料の量が多すぎる、肥料のバランスが悪いなど、
間接的な原因で、果実のカルシウム不足が起きるからです。
僕も、この果実が黒くなる症状にはよく悩まされました…
対応するのに、いろいろ試しました。
その時に得たノウハウなども含め、この記事では、トマトの果実が黒くなる症状「尻腐れ果」の発生の仕組み、対策について解説します。
家庭菜園でトマトの栽培がしたいけど、畑が準備できない方は、レンタル式シェア農園の利用がオススメです(手ぶらで行けて栽培サポート付きです)。
トマトの果実が黒くなる…これって何?
最初に、この果実のお尻が黒くなる症状を見ると、びっくりするかもしれませんね。
見た目が悪くて、とても食べることができなそうに見えるので。。
まずは、このお尻が黒くなる症状は、どのような特徴があるか基本的な解説を行います。
果実のお尻が黒くなるのは「尻腐れ果」
「尻腐れ果」は病気ではなく、生理障害に分離される症状です。
しかし、尻腐れの果実があるということは、
その栽培環境が、発生しやすい環境にあるという事なので、対策する事が必要となります。
黒くなる部分は、細胞が壊れることによって症状が出ます。
そのため、
1度発生した、尻腐れ果の症状を回復する事はできません。
この後、詳しく解説しますが、
尻腐れ果実の対策として、カルシウム剤の散布がよく行われます。
一度、発生した後は、いくら、どんだけ、カルシウムを与えても、症状が戻る事はありません。
ですので、
発生しないように、予防していく事がとても大事な対策となります。
また、農家さんの栽培の場合、
尻腐れ果の発生した果実は、市場に出荷する事ができなくなります。
他の果実の生理障害、裂果、チャック果、変形果などはB品として、価格は下がるけど出荷する事ができます。
しかし、尻腐れ果は、B品としても出荷できなくなるため、収益に結びつかないものとなってしまいます。
そのため、生理障害の中でも、特に気を付けたいひとつです。
よくある質問:食べても大丈夫?
症状の見た目から、食べないほうが良さそうに見えますが、
ある程度熟した状態から、尻腐れが発生した果実は、以外に糖度が高く美味しかったりもします。
(尻腐れは灌水量が少ない時に発生しやすく、結果、果実の糖度も上がっている)
トマトの果実が黒くなる理由
尻腐れ果への、効果的な対策の管理をするためにも、発生のメカニズムをしっかり理解しましょう。
直接の原因は、果実へのカルシウム供給不足
果実のお尻の部分が、黒くなるのは、細胞が壊れる事によるもので、
果実へのカルシウムの供給が不足することが原因となります。
トマトを栽培する中で、主にカルシウムが供給される方法は、土壌中にある肥料などのカルシウムを、根から取り入れるものです。
しかし、土壌中に、十分なカルシウムが存在するにも関わらず、間接的な要因で尻腐れ果が発生する事があります。
実際の現場の栽培の中では、
尻腐れ果は、間接的な要因で発生するほうが多いです。
カルシウムの供給不足を起こす間接的な要因
主な要因は以下のとおりです。
- その①:土壌水分不足によるもの
- その②:茎葉への収奪によるもの
- その③:土壌中のチッソ、カリ過剰で拮抗作用によるもの
要因その①:土壌水分不足によるもの
カルシウムは、植物体内を移動するには、水分が必要です。
そのため、スムーズに移動させるには、「乗り物」が必要となり、「水」がその役目を果たします。
ちなみに、カルシウムに対してチッソは「軽い」特徴を持ち、移動しやすい要素です。
要因その②:茎葉への収奪によるもの
果実がカルシウムを必要とするのと同様に、葉でもカルシウムが必要です。
トマトの葉が健全に生育するために、葉でもカルシウムが利用されます。
そのため、葉の枚数が多く、各葉のサイズが大きい時は、果実で利用できるカルシウムの量は減ってしまいます。
例えば、
同じ枚数の葉を持つ、AとBのトマトの株が2株あったとします。
Bの株は、全ての葉の大きさが、Aの2倍です。
このような場合、果実へ供給できるカルシウムの量は、Aの株の方が多くなります。
実際の栽培現場では、
収量を増やすために、灌水、肥料の量を増やして、強めに生育させる事がよくあります。
このような場合は、葉が大きくなりやすく、必要以上に強く生育した株では、尻腐れ果の発生が多くなります。
果実は、
熟して赤くなると収穫されますが、
葉は、
老化しても、栽培する人が「葉かき」の管理をして取り除かない限り、その株についたままになり、この老化している葉でもカルシウムが使用されてしまいます。
そのため、
要因その③:土壌中のチッソ、カリ過剰で拮抗作用によるもの
元肥や追肥を行う際に、カルシウムに対して、チッソやカリの施肥量が多くなるなど、
複数種の肥料の中でバランスが崩れると、拮抗作用で、カルシウムの吸収が悪くなります。
カルシウムは、ー(マイナス)に帯電していて、
同じく、ー(マイナス)に帯電している、チッソ(アンモニア態)、カリ、マグネシウムのバランスが崩れると、カルシウムの吸収に影響します。
このようなイメージで考えてみてください
ー(マイナス)の肥料の吸収できる量が決まっている。
カルシウム以外の、ー(マイナス)の肥料が、土壌中に多くありすぎると、その分カルシウムが吸収されにくくなる。
トマトが黒くなる時の対策方法とコツ
尻腐れ果は、発生する原因を理屈ではわかっていても、発生を防ぐ事が難しい生理障害です。
現場での栽培管理の事情も含めて、対策の方法を考えてみましょう。
発生しやすいタイミング
尻腐れ果には、果実のステージ(大きさ)によって、発生しやすいタイミングが変わります。
対策を効率的に行うには、その時期を知る事が重要です
特に発生しやすい時期は、ゴルフボール大の頃です。
これは、大玉トマトの場合です。
果実はゴルフボール程度の大きさになってから、肥大(大きくなる)するスピードが急に増します。
そのため、その肥大にカルシウムの供給が追いつかなくなります。
大玉トマトの栽培では、1つの房に実らせる果実の数を制限するために、
「摘果(てきか)」の作業を行います。
摘果は、対象の果実がゴルフボール大になった時が、作業の適期となるため、
尻腐れ果の果実を優先的に落とします。
摘果の効果や作業については、こちらの記事を参考にしてください
自分で育てているトマトを、知り合いの人が見に来ました。その人は、たわわに実っている自慢の果房を見て、「果実多く成らせすぎ、摘果したほうがいいよ」と言われました。こんなにかわいい果実を収穫前にとるなんて、あり得ません。[…]
尻腐れ果の発生しやすい時期は、ゴルフボール大のときですが、他の時期でも発生します。
肥大がほぼ終了して、色が付く前の時期にも発生する事もあります。
このように、収穫の数週間前に発生すると、せっかく、時間をかけて管理したのに、商品価値がなくなる場合もあり、けっこうへこみます。涙
尻腐れ果の対策方法とコツ
尻腐れの対策には、主に
- 発生した後に行う対策
- 発生する前に予防的に行う対策
- 発生前、後どちらにも効果がある対策
の3種類となります。
実際の対策では、発生前、後どちらにも効果のあるものがほとんどです。
対策その①:カルシウム剤の葉面散布
速攻性があり、効率的にカルシウム施用ができる対策です。
速攻性があり、効率的にカルシウムを施用できますが、一度に与えられるカルシウムの総量は多くありません。
そのため、
発生の状況によりますが、
週に1回〜2回の頻度で、発生する果実が少なくなるまで続けます。
使用するカルシウム剤によりますが、500〜1,000倍に希釈して、葉、茎、果実にしっかり付着するように散布します
葉面散布の方法については、こちらの記事を参考にしてください。
トマトの栽培技術の中に、葉面散布がありますよね。「葉っぱ」に、いろいろ散布すると思うのですが、いったいどのようなものなのでしょうか?どのような効果があって、どういう時に使うものですか?薬剤散布とはどのよう[…]
代表的なカルシウム剤は以下の商品です。
*こちらは、水で薄めずそのまま使えるタイプ。
家庭菜園など、小面積の栽培に最適です。
対策その②:カルシウムの液肥追肥を行う
尻腐れ果が多発している時に取るべき対策です。
カルシウムの供給と、草勢低下の効果があります。
カルシウム液肥に施用には、2つの効果があります
- ①根から液肥としてカルシウムを与える事ができる
土壌中の肥料として存在するカルシウムよりも、液肥で与えるほうが、水分と一緒にカルシウムが吸収されるため、効果がよく出ます
- ②カルシウムの追肥は、草勢を落とす効果がある
葉の数が多すぎる時に、尻腐れ果が発生する事はすでに説明したとおりです。
葉の量を制限する対策に、次の項目で説明する「葉かき」がありますが、大規模の栽培では手間のかかる作業となります。
カルシウムを追肥することで、草勢が弱くなり、その後の葉の成長などを弱い方向へ向ける事ができます。
手間のかかる作業をしなくても、液肥灌水で「葉かき」に近い効果を得る事ができる方法です。
このように、
オススメの液肥用カルシウム肥料
硝酸カルシウムの肥料です。
水に1,000倍希釈し、液肥灌水として利用してください。
対策その③:追肥にはカルシウムを含み、硝酸態チッソが多い液肥を利用する
尻腐れ果が発生していても、その先のトマトの生育のために、追肥が必要な場面は多くあります。
また、追肥を行う事は、葉を大きくする、カルシウム以外の肥料要素との拮抗作用により、発生リスクを増やす管理でもあります。
尻腐れ果の発生を最小限にして、追肥を行いたい場合は、
利用する肥料の種類をしっかり選定する事が重要です。
なかでも、選定の条件になるポイントは
- 1:カルシウムを含む
- 2:チッソの成分が硝酸態主体
チッソは「アンモニア態」よりも「硝酸態」の方が、カルシウムとの拮抗作用が少なく、カルシウムの吸収を邪魔しません。
オススメのカルシウムを含む複合肥料
カルシウムが含まれており、チッソ成分のほとんが硝酸態で構成されています。
対策その④:灌水を行うタイミングを工夫する
実際の栽培では、「いつ灌水を行うか」という判断は、
尻腐れ果の発生を抑えるためというよりも、
トマトの株の草勢を維持する、収量を増やすために、を目的にする事が多いと思います。
そして、
ただ、積極的に尻腐れ果の発生を抑えるための、灌水のタイミングもあります。
それは、
曇天が数日続いた後に、晴天になり、トマトの株の萎れが出そうな時です。
雨や曇天が続くと、灌水量を少なく調整する事がほとんどです。
その時は、尻腐れ果の発生には、あまり影響しませんが、
雨天、曇天が数日間続いた後に、急に天気が良くなり、気温も急に上がると、トマトの株に萎れ(しおれ)が出やすく、一時的に株全体で水が不足する状態となります。
そのため、雨天、曇天続きの後に、晴天になる事が予想できる日は、
- 早朝の気温が上がる前から、積極的に灌水
- 1日灌水を2〜3回など複数回に分ける
など、灌水管理を工夫する事が、萎れの発生を防ぎ、尻腐れの防止にも役立ちます。
対策その⑤:葉かきを行って、葉の量を減らす
記事の最初にも書きましたが、ぼくは、過去に尻腐れの「激発」に悩まされた経験があります。
そのため、さまざまな対策の方法を試しました。
その結果、
「葉かき」を行って、葉の量を調整する事が、最も効果の出る対策方法だと考えています。
ただ、尻腐れ果が発生したからといって、やみくもに「葉かき」を行う事はオススメできません。
十分な草勢(生育の強さ)があり、十分な葉の枚数、大きさがある時に行う方法です。
収量を出すための栽培には、やや強めの草勢管理をする方が、良い成績になることが多いです。
草勢を強くすると、葉のサイズも大きくなりやすいため、尻腐れ果発生のリスクも増えます。
葉かき作業は、通常下の葉から順に行う方法をとりますが、
尻腐れ果の対策で、発生する果実の場所が集中している時は、その果実付近の葉をピンポイントで取り除く方法をオススメします。
葉かき作業については、こちらの記事も参考にしてください
トマトの葉かき作業について質問する人:「近所でトマト栽培をしている人のトマトを見ると、「葉かき」がされていて、けっこうスッキリしているように見えます。せっかく葉が大きくなったのに、切ってなくしてしまうのは、何だか[…]
対策その⑥:発生を確認したらすぐに摘果する
尻腐れは、発生したら症状が回復する事はありません。
出荷できない果実となるため、発生を確認したら早めに摘果して、他の果実の充実させるようにする事が大切です。
対策その⑦:元肥にカルシウム(石灰)を加える
畑で栽培する場合は、苗の定植前に元肥を施すのが一般的です。
使用する肥料は、チッソ、リン酸、カリなどの要素の他に、
この事で土壌にカルシウムが不足する事は少ないですが、
土壌の酸度の調整は必要ないけど、尻腐れ果の対策としてカルシウムを加えたい場合は、
硫酸カルシウムの利用がオススメです。
この肥料は、土壌の酸度を上げる事なく、カルシウムを加える事ができます。
硫酸カルシウム肥料 ダーウィン (ダーウィン1000(20kg))
畑に元肥を加える時に一緒に入れます。
目安の量:60〜100kg / 10a ( 2〜3kg / 1坪)
トマトの果実が黒くなる理由、尻腐れ果の対策について、解説しました。
らでぃっしゅぼーや(定期宅配コース)
以上、「トマトがあれば〜何でもできる!」が、座右の銘。
とまと家・中島がお届けしました。
Happy Tomating!!