日本のトマト栽培でも、連棟の温室など、ハイグレードな施設で栽培している場合って、けっこうな確率でロックウールを使ってますよね。
ぶっちゃけ、ロックウールの栽培って良いのですか?
土耕の栽培と比べると、どういう違いがあるのでしょうか?
このような疑問をお持ちの方へ向けて、この記事を書きました。
この記事を書いている僕は、北海道を中心に海外含め、17年間トマト栽培を行っております。
過去には、ロックウールを使用した養液栽培を行った事もあります。
そして、僕はトマトのロックウール栽培が大好きです。
なぜなら、安定して、収量が上がるからです。
培地の資材や、関連する周辺の資材を含めると、初期投資は大きくなりますが、腹を決めた方には、きっと明るいトマト栽培ライフがまっているでしょう。
今回は、トマトのロックウール栽培について解説します。
トマトのロックウール栽培の特徴
ロックウールは玄武岩という岩を原料として、作られる資材で、
主な主成分は、ケイ酸と石灰で、アルカリ性が高い培地です。
果菜類や花の栽培で、多く使われていますが、どのような特徴があるのでしょうか?
ロックウールの栽培を行うメリット
培地の条件がトマトの生育に好適で収量が上がる
ロックウール培地は、トマトの根が生育するのに、とても良い条件となります。
「水持ちが良く、排水性も良い」という、土耕の栽培では作る事が非常に難しい条件を、資材を購入するだけで簡単に作る事ができます。
固形の培地のため土耕栽培の技術を応用しやすい
養液栽培として利用される培地ですが、NFTなどの水耕栽培ではなく、固形の培地を利用する技術です。
そのため、土耕栽培での根の生育の技術の応用がしやすいです。
世界も最も使用されている、トマトの養液栽培技術のため、情報が多い
海外でも多く利用されている、栽培技術のため、多くの情報を検索する事が可能です。
資材の設置が楽
使用する前のロックウール培地は、非常に軽く、持ち運びが楽です。
栽培前の培地の準備も、栽培場所に設置して、フィルムに植穴開けて、培地に灌水する程度となります。
土耕栽培の畝立て・マルチングや、袋栽培の培土詰めにくらべると、圧倒的に作業量が少ないです。
毎作、培地の条件がリセットされる
毎作ごとに、新しいロックウール資材を、利用出来る場合であれば、苗を定植する状況がその都度、リセットされる事になります。
土耕栽培の場合、土壌病害が発生したり、過剰な塩類が集積したりすると、その後の良好な栽培のために多くの手間が必要になります(土壌消毒や、除塩処理等)。
また、培地の品質は一定のため、毎作、再現性の高い栽培を行う事ができます。
ロックウール栽培を行うデメリット
灌水を養液栽培に対応させる必要がある
ロックウールの培地には、肥料分がないため、灌水する際に、肥料分を含めて行う必要があります。
使用する肥料を選ぶ際も、微量要素も含むレシピにする必要があるため、土耕用の液肥では対応できない場合も多いです。
資材のコストがかかる
ロックウールの培地は決して、安い資材ではないです。
定植用の培地(スラブ)と、育苗用の培地(ブロックと、播種用のプラグ)を準備する必要があります。
*定植用の培地は、同じものを2〜3作使用する方もおり、コストの削減を図る事もできます。
周辺資材のコストがかかる
ロックウールの栽培を行う時は、専用の灌水資材を準備する事が必要になります。
L字のドリッパーを中心に、灌水資材を準備する事が多く、土耕栽培からの資材の使い回しは難しいです。
ロックウール栽培は多くの場合で、長期どりの栽培で使用される事が多いです(1回あたりの資材のコストが高くなり、回収するため)。
長期どりを行うためには、誘引の方法もそれに向けて変更する必要があります。
トマトのロックウール栽培で必要となる資材
ロックウール栽培を始める際は、培地だけ用意しても、この資材の特徴を生かす栽培はできません。
特に、灌水管理には専用の資材が必要となるため、培地と周辺資材の準備をセットで行う必要があります。
ロックウール培地
ロックウールの培地には用途に応じて、3種類に分類されます。
- 播種用のロックウール培地(播種〜移植)
- 育苗用のロックウール培地(移植〜定植)
- 栽培用のロックウール培地(定植〜)
①と②については、こちらの記事を参考にしてください。
トマトのロックウール栽培を行うように計画しています。ロックウール栽培で使用する苗の、育苗方法は培土を使うものと比べると、どのように違うのでしょうか?播種用や、移植後に使用するロックウール資材も販売されていますが、どのよう[…]
3:栽培用のロックウール培地(定植〜)
定植用の培地は、「スラブ」や「マット」と呼ばれており、数社のメーカーより販売されています。
今回は、オランダのロックウール社(取扱製品の登録商標:Grodan)の製品を例に、定植用にロックウール培地について解説します。
培地の種類
培地の種類には主に3種類あります。
それぞれの商品の違いになっている点は、繊維の方向と密度です。
繊維が縦方向、または密度が低くなると通期性、排水性が良く、冬場の栽培や、糖度を上げる目的の栽培に向きます。
・クラシックMY(2年用)
培地の耐久性が良く、2年用として販売されている。
繊維が上部、下部ともに、横方向(水平方向)で、密度の違いもないタイプ。
・グロトップ マスター(1年用)
繊維が上部が横方向(水平方向)で、高密度、下部が横方向(水平方向)で、低密度。
繊維の方向は同じですが、上下で密度の変化があるタイプ。
・グロトップ エキスパート(1年用)
繊維が縦方向。
上下共に、縦方向で密度の違いもない。
ラッピングの有無
ロックウールの培地をフィルムでラッピングしているタイプと、そうでないもんがあります。
ラッピングされている方が、水持ちが良く、作型や栽培の目的沿って使い分けます。
培地の大きさ
培地の長さ、幅、高さの規格がいくつかあります。
大きい方が、培地の量が増えますので、根域が広がります。
プランターでの解説ですが、こちらの記事も参考にしてください。
基本的には、培地を続けて設置しますので、定植する際の株間によって使い分けます。
例えば、株間30cmで植える場合は、900mmのタイプ、株間40cmで植える場合は、1,000mmもタイプというように選びます。
周辺資材
ロックウールの培地を使用する栽培を行う際は、培地の合わせた、または、培地の特性を生かすための、周辺の資材の準備も必要になります。
培地の棚等
培地用の台や、ハンモックタイプなど、ロックウールの培地向けの資材があります。
多くの場合で、灌水時の廃液を回収する仕組みも備えてあり、大規模でロックウール栽培を行う際も必要となります。
地面にベタ置きでも、栽培はできますが、廃液の回収が難しくなります。
誘引資材(長期収穫向け)
ロックウールの培地の利用には、長期の栽培でも安定して収量が出しやすい特徴があります。
逆にいうと、長期の栽培を行わないと、培地資材のコストの回収が難しく、培地の特徴をうまく利用できていない事になります。
ロックウールの培地を使用する際は、つり下ろす誘引方法など、長期の栽培に向く誘引の施設の設置もセットで考える必要があります。
灌水資材
ロックウールの培地を利用する場合は、灌水資材も専用のもの変える事が必須です。
ロックウールの培地用に、多く使用されているのが、NETAFIM社製の灌水資材です。
L字のドリッパーを1株に対し、1本差し、マイクロチューブ、ボタンドリッパーなどを組み合わせて利用します。
トマトでロックウールを利用する栽培管理方法
ぶっちゃけ、ロックウール栽培を始める際に、一番難しい事は、施設、資材の準備です(お金がいっぱいかかるから)。
栽培の環境さえ整えば、資材の特徴をいかして安定した栽培を行えます。
ただ、それでもロックウール培地特有の、栽培管理方法もありますので、その点を紹介します。
ロックウールの培地への定植作業
植穴設置
ラッピングのタイプを使用する方は、フィイルムにマーキングして、カットする準備が必要です。
苗のキューブを同じ穴の形にするほうが、ラッピングの特徴を生かす事ができます。
スラブの上部の面と、同じ大きさの段ボールを準備して、植穴の多きさと、設置の間隔に合わせて、穴を開けたものを用意し、それに合わせてマーキングすると便利です。
定植前の灌水
定植前には、培地にたっぷり灌水します。
ドリッパーの灌水資材が利用できる場合は、それを使います。
培地全体が、しっかり水分を持つように灌水します。
ロックウールは、アルカリ性の培地なので、灌水する養液のPHを調整できる場合は、培地内の養液がPHが7.0を切るまで、事前の灌水を行うと良いです。
ラッピングタイプを使用する方は、フィルムに排水用の穴をあけることが必要です。
カッター等で切るだけで良く、排水場所は、培地の下部に3カ所開けます。
定植作業
定植の作業は、基本的に、苗をスラブに置くだけです。
苗が大きく、置くだけではキューブが安定しない場合は、定植時に誘引を行う、キューブとスラブを竹串などで固定する方法で対応します。
定植後の灌水資材(ドリッパー)は、スラブではなく、キューブの上面に設置します。
ロックウール栽培での灌水管理
培地内の水分の維持
栽培中は、ロックウール培地の水分が、30〜100%で維持されるように管理します。
30%の目安は、培地を上から押して、排水用の穴から水が、出るか出ないかという状況です。
押しても出なければ、なるべく早く灌水を開始します。
1度の灌水量の目安
灌水後の廃液の量を確認できると、適正が灌水を行いやすいです。
基本的には、全体の灌水量に対し20%前後の廃液が出る量を、1度の灌水量の目安にします。
1日の中の灌水の回数
回数の決め方は、
- 培地の水分が30%になった状態で、廃液20%前後の灌水量をチェックする
- その量で灌水したときに、毎回の廃液が20%前後になるよう頻度で灌水を行う
- 日の出時刻〜日の入り時刻までに、行う灌水の回数を基本とする(灌水は日中のみ行います)
- 生育ステージや、時期によって灌水の回数を調整する(1回の灌水の廃液量が多くなったら、回数を減らし、多くなったら、増やす)
というように、生育ステージや、時期により調整します。
養液濃度の調整
ロックウールのスラブに定植してからは、基本的にEC2.0〜3.0の間の養液を使用し、生育ステージや、草勢の状況、栽培している時期によってEC値を調整します。
調整する際に基準にするのは、培地の中の養液のEC値です。
例えば、EC2.5で管理するという事は、灌水に使用する養液の濃度を2.5にするのではなくて、培地が含んでいる養分を、2.5で管理するという事です。
その日の朝一番の灌水をする前に、培地の中の養液の数値をチェックして、基準の数値とします。
灌水の後は、どうしても行った養液に近い数値が出るためです。
培地内の養液は、針のついていない注射器の器具で行う事ができます。
以上、「トマトがあれば〜何でもできる!」が、座右の銘。
とまと家・中島がお届けしました。