ロックウール栽培で使用する苗の、育苗方法は培土を使うものと比べると、どのように違うのでしょうか?
播種用や、移植後に使用するロックウール資材も販売されていますが、どのように使用すれば良いのか、わかりません。
ロックウール資材を使った育苗の方法を知りたいです。
このような疑問をお持ちの方へ向けて、この記事を書きました。
この記事を書いている僕は、北海道を中心に海外含め、17年間トマト栽培を行っております。
過去には、ロックウールを使用した養液栽培を行った事もあり、それに向けた育苗も行いました。
この育苗方法は、土耕の栽培で使用される、培土を使用するポット苗の育苗方法とは、違う点もあります。
資材の選び方から、実際の育苗の方法について解説していきます。
トマトの育苗に必要なロックウール資材
一般的に、育苗は、播種から定植するまでの、苗を生産する作業をさします。
ロックウールの定植用資材(マットやスラブと呼ばれる)を利用して、栽培する際は、育苗用の資材もロックウール製のものを使用する場合がほとんどです。
育苗作業の中で必要となる、ロックウールの資材は主に2点です。
播種用の資材(マットやプラグと呼ばれる)
播種に使用されるロックウールの資材は、主に2種類あります。
プラグ苗タイプ
オランダのロックウール社(取扱製品の登録商標:Grodan)の、キエムプラグが代表される商品です。
専用のトレーと培地がセットになり販売されていますが、培地のみのプラグが交換用としても販売されています。
培地の形が丸型で、サイズも、移植に使用するキューブの植穴に合わせているため、育苗用の資材との相性がとても良く、その後の作業が容易です。
1枚の穴数は240です。
マットタイプ
日本ロックウール株式会社の、カルチャーマットが代表される商品です。
マット資材のみでの販売のため、アンダートレイとセットで使用する事が必要となります(セルトレイ用の、一般的な大きさのアンダートレイで使用できます)。
1枚300個のブロックに分かれており、移植時には、底面でつながっている部分を取り除く必要があります。
各ブロックの形は、四角形ですが、移植用のキューブの植穴と近いサイズのため、簡単に移植作業ができます。
1枚の穴数は300です。
移植用の資材
移植後〜定植までの期間に、使用されるロックウールの資材には、ブロックやキューブと呼ばれるものを使用します。
オランダのロックウール社(取扱製品の登録商標:Grodan)デルタシリーズ
おそらく、世界で最も利用されている、トマトの育苗用ロックウール資材と思います。
キューブ型で上面の中央に穴が開いており、そこへ本葉2枚前後の苗を移植し、その後、開花前後まで育苗するという方法です。
デルタシリーズには、2種類あり、「デルタ」と「プラントップデルタ」があります。
プラントップデルタは、植穴の周りに溝が付けられており、キューブへより均一な灌水が可能となります。
デルタシリーズには、いくつか規格がありますが、トマト用としてよく利用されるものは、
移植用の穴の寸法が、
となります。
ブロックタイプの資材は、日本ロックウール株式会社からも、「やさいはなポット」といる商品名で、販売されております。
グロダン社のものとは、規格等少々違いますが、同じ使い方で使用する事が出来ます。
トマトのロックウール栽培の育苗方法【播種〜移植まで】
ロックウール資材を利用する育苗は、温度管理は基本的に培土を使用する方法と同じですが、一部の作業の方法が変わります。
ここでは、播種作業の方法とコツについて解説します。
播種作業
培地に水を含ませてからのほうが、播種しやすい
キエムプラグ、カルチャーマット、どちらの準備の場合も、まずトレイにセットします。
その後、播種前に培地に水を含ませてから、播種するほうが楽に作業できます。
播種後の灌水でも、良いのですが、ロックウール資材への播種の場合、覆土をしない方法もあり、種が動くのを伏せぐために、事前に水を含ませます。
ロックウール資材は、水の浸透性がとても良いですが、ジョーロ等で灌水する場合は、資材全体が均一に水分を持つように灌水します。
このときに使用する水は、肥料を含ませたものでOKです。
よく、肥料分の少ない状況のほうが、発芽がよくなると言います。
確かにそうだと思うのですが、トマトの栽培現場では、適正な範囲であれば、肥料を含んでのそうでなくても、大きな差はでません。
そして、肥料を含んでいる水で灌水したほうが、発芽後の徒長防止に効果がでます。
播種後の覆土はなくてもOK
ロックウール資材への播種の場合、
培地の水持ちが良く、
種子と培地との接着も良く、
種子に安定して水分を供給できるため、
基本的には覆土はなくても大丈夫です。
ただ、播種後にトレイを、直射日光が強く当たる場所等、乾きやすい所で管理する場合は、覆土をした方が良いです。
覆土する場合はバーミキュライトがオススメです。
播種後の栽培管理
ロックウール培地への播種後の温度管理と、灌水を行うかどうかの判断は、基本的にセルトレイ+播種用培土を使用する時と同じ方法(トレイの重さで判断する方法)でOKです。
ロックウール培地用に管理の内容を変えた方が良い点は以下のとおりです。
灌水には最初から液肥を含めたもので行う
ロックウールは、培土と違い、培地自体に肥料分を持ちません。
ですので、灌水をする時に液肥を加えて、その養分をトマトの苗へ利用させる必要があります。
基本的に、灌水を行う時は、全ての管理で液肥を加えて、灌水=液肥灌水とします。
液肥灌水の肥料濃度の目安
播種後から移植までの、養液のEC濃度は以下の内容を参考にします。
発芽〜本葉1.5枚期:EC 1.2前後
本葉1.5枚期〜2.5枚期:EC 1.5前後
・灌水は底面灌水がオススメ
ロックウール資材の特徴に、吸水性の良さがあります。
底面から灌水しても、培地全体に均一に水分が行き渡りやすいです。
この特徴を利用して、特に規模が大きく、多くの枚数のトレイの育苗をする栽培では、養液を貯めたり、排水したり出来る施設に、ロックウール培地を設置する方法がとられます。
トマトのロックウール栽培の育苗方法【移植〜定植まで】
本葉2.5枚前後の苗を移植した後は、特に苗の徒長に気をつけなければならない時期となります。
ロックウール資材は、水持ちの良い特徴があり、その点をしっかり意識して管理する事が大事になります。
移植作業
移植前のブロックの準備として、ECの濃度を1.5前後に調整した養液を、あらかじめ含ませます。
その後、移植の作業を行いますが、ブロックにはあらかじめ穴がつけられているため、そこに入れるだけです。
キエムプラグ苗を使用する場合は、根鉢と穴の間に隙間ができると思いますが、そのままでも問題なく活着します。
バーミキュライト等で、隙間を埋めても良いですが、手間がかかる割に、やらない場合と、その後の生育は変わらないので、そのままでOKです。
カルチャーマットを使用する場合は、穴より根鉢が大きい状況になると思いますが、ブロックの穴にキレイに入るように、根鉢を少々つぶしながら入れ込みます。
移植後の管理(定植まで)
ロックウール資材の育苗の場合、移植作業後の温度管理は、ポット育苗と同じ条件でOKですが、
灌水の管理は少々気を使って行う必要があります。
水分の管理、養液の管理についての詳細を解説します。
培地内の水分のコントロール
ロックウール資材での育苗は、1度の灌水の効果が長くて大きいので、その分徒長に気をつける必要があります。
培土を使う育苗で、移植後に潤沢に灌水を行うと、苗の徒長につながるため、少々の萎れ症状がでるくらいで管理する方法もあります。
ロックウール資材の特徴として、水の吸収は良いのですが、吸水後、1度資材が乾くと、再度水を吸いにくくなります。
そのため、培土を利用する時のように、灌水を控えて苗の徒長を防ぐ管理が行いにくくなります。
ロックウールのブロックが極端に乾くことなく、苗の徒長を抑えるために、使用する養液の濃度を上げる方法があります。
その時の苗のステージにとって、あえて、適切な範囲を超える濃度で灌水する事で浸透圧の原理で、苗が吸収する水の量をコントロールします。
培地内の肥料養分のコントロール
培土を使用する場合は、ほとんどの場合、元肥を含んだものを使用しますので、育苗途中の液肥灌水はほぼ使用しません(定植前など育苗後半の時期には使う事は結構ある)。
対してロックウールの場合は、播種〜移植の期間同様に、灌水する際は液肥を加える必要があり、育苗後半は徒長防止にも考慮した養液の設定が大切になります。
使用する液肥の濃度は、苗のステージによって変えます。
目安のEC濃度と苗のステージは以下のとおりです。
移植〜本葉5枚期まで:EC 2.0
本葉5枚期〜定植まで:EC 2.5
移植〜定植までの期間に、EC濃度、2.0〜2.5の灌水は、トマトの適正な管理からすると、高い数値となりますが、灌水管理で説明したとおり、
徒長を防ぐ狙いがあります。
定植苗の目安
育苗を終えて、本圃に定植する苗の目安は、一般的な栽培の、1段花房開花です。
灌水に使用する養液の濃度に注意しながらの、管理が続くと思いますが、良い苗の生産を目指しましょう。
以上、「トマトがあれば〜何でもできる!」が、座右の銘。
とまと家・中島がお届けしました。